010: 音をのばさないといい音にならない

一息の中で、後半になると、いい音が出始めます。短い音が、苦手です。(東京都・Kさん・22才女性)

尺八は殊に音の立ち上がりが鈍い楽器です。

そのマイナスの特性をうまく逆手に取ったのが「笹吹き」という手法です。これは、音の形を笹の葉の形のように、出だしを弱く、そこから途中だんだんと強くしていき、最後はまた弱くしていく手法です。

でも、これって、普通にだらしなく尺八を吹くと、こうなります。

笹吹きしかできない人は、スタッカートを確実に鳴らすことはできませんし、速いパッセージでは旋律の輪郭をまともに提示できません。笹吹きの出だしの弱い部分で、いきなりその音の出番が既定時間に到達してしまうからです。

音の出だしは弱いのがよいのではありません。表現として弱く出る選択はあっても、いつでも強くズドンと出られる状態を目指しましょう。

強くズドンと出られない人は、まず「さぐりながら」音を出し始めて、よし、これならいけそうだ、という状態を見つけてからはじめて圧力をかけ始める傾向があります。

さぐらないでください。良い音の出る一点を、いきなり突き当ててください。

それと同時に、息の圧力を全開にしてください。この技術ができてはじめて、いろいろな表現についての取捨選択がスタートできます。

その取捨選択の一つの例として、スタッカートの表現について、考えます。

(スタッカートとは「音を短く切る」という表現です。この表現を表す記号は、音符についているポチっとした小さな黒丸です。五線譜の場合はこれが音符符頭の真上または真下に、尺八縦符の場合は左右どちらかの真横につきます)

このスタッカートを、ピッ、ピッ、と吹いては、いけません。飽くまで、音をパン、パンと最後まで鳴らし終わるまで息を吹き込みます。指ではじいたバイオリンの弦が、最後まで振動し切るイメージです。

具体的な方法として、スタッカートにおける滞空時間の長さを意識してみましょう。

1拍の長さを100として、その音をスタッカートでピッ、ピッと吹いた場合、その長さは100に対して5とか、10です。

当然曲調に拠りますが、この長さを20とか、30にしても、それはスタッカートに違いありません。

滞空時間について、まだまだ余裕が残されていることを理解してください。

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