015: 舞台で緊張してしまう

舞台で緊張してしまって、音が震えたり、思うように演奏できません。どうすれば克服できますか。
(東京都・Yさん・?才女性)

人間、緊張すると、手が震えます。

これは、過度の緊張=生命の危機と体が判断し、外敵に対抗するための筋肉組織は臨戦体制万全でっせ、というサインです。

しかし、法治近代社会において、外敵は物理的攻撃を仕掛けてきません。

舞台上のあなたにとっての外敵とは、聴衆であり、舞台上の共演者であり、舞台袖で耳をそばだてている人々であり、終演後にあなたに批評を浴びせてくる人々です。しかしこれらに悪意や攻撃の意思がある場合は稀であり、問題なのは、それを過剰に意識しているあなた自身です。

舞台上でこうした「外敵」を前にして、あなたの体は過度に緊張して、楽器演奏という繊細な作業が必要な場面なのに興奮を司る交感神経が無駄に反応し、結果実力の半分も出せないままの、さんざんな演奏に終わります。

これは、いけません。すべからく解消されるべき深刻な問題といえます。

しかし、問題はあなたの心の中にあり、その解消は容易ではありません。多くの分野の専門家たちが躍起になって研究を重ねている分野です。

これらの専門家の研究を前に、尺八演奏家の経験が果たしてどの程度のものなのかという疑問はさておき、現場前線の視点からの、解消への糸口を、以下5点、挙げてみます。

1.イメージトレーニング

人間は習慣の動物です。慣れていない場面では緊張しても、慣れている場面では緊張しません。普段の稽古から、舞台上の自分をイメージしてみましょう。

舞台に着席するところから、幕が上がって、演奏を開始し、吹き終わるまで。ドキドキ感を鮮明に。重要なのは、緊張してダメダメな自分ではなく、最後まで見事に吹き切ったナイスな自分をくっきりとイメージすることです。

これを日常の稽古で、ただ吹くのではなく、一曲さらう中でこのイメージトレーニングを行いながら吹きます。

2.どうせ尺八なんて・・・

緊張の根底には、失敗への恐怖心があります。失敗できない、失敗したくない!というプレッシャーです。

こうした人は、舞台に上がるときの心境として、尺八を上手に吹くことが、人間を評価する唯一の判断基準となっています。つまり、舞台で失敗=人生終了。という公式が組み立てられています。

別に、失敗しても、だから何?と、思ってみましょう。

自分のいいところ、すきなところ、かっこいいところ、かわいいところ、をどんどん思い浮かべてみましょう。けっ、尺八なんて、下手でも、全然影響ないぜ!と、思ってみましょう。そう思えたら、だいぶ楽になると思います。

3.演奏に一点集中できる状態をつくる

つまり、演奏以外のところに意識がとんでいる状況が考えられます。モヤモヤモヤーっとした漠然とした不安感、演奏に集中できません。

これに対する一つの克服法として、「演奏直前に、舞台上で何か一つ目標を決めて、それを成功させる」という方法があります。

例えば、椅子奏であれば、椅子にきっちり腰掛けて背筋をピンと伸ばす。あるいは例えば、10秒間息を止める。これだけでいいんです。集中完了。それを成功させると、次に成功させるべき目標が見えてきます。

4.演奏以外のことに意識をとばしてみる

要するに、演奏の舞台をつらいもの、と無意識のうちに捉えてしまっています。これを楽しいもの、に変えられない以上、「歯医者さんで泣かなかったらおもちゃを買ってあげるよ」と自分に言い聞かせる作戦をとります。

演奏後、飲み会で大吟醸全種類制覇する、特大ステーキ500gミディアムレアをオイスターソースで一気に食べる、銀座の超人気店チーズケーキバイキングでお腹いっぱい、欲しかったバッグを買う、時計を買う、旅行に行く、など、めくるめく楽しみの限りを、演奏に集中するべき瞬間に、想像してみましょう。

5.ゆるぎない自信を確保しておく

緊張発生のメカニズムとしては、演奏がどっちに転ぶかわからない、その不透明さが不安となり、そこから恐怖心が生まれ、緊張へと結びつきます。よって、このメカニズムの根元の部分、「演奏がどっちに転ぶかわからない」という状態(=練習が不足していることの自覚、或いはそれに対する潜在意識からのダメ出し)を解消すれば、結果として緊張は生まれません。つまり、演奏が進むべき方向を、確実にしておく=事前の練習稽古を完璧にしておく、という方法が導き出されます。

筆者経験上の目安としては、本番当日の2週間前までに暗譜が完了しており、その後合奏練習を録音、毎日の行き帰りの電車の中で流し続けて、前日あるいは本番当日に1回以上、全体をさらっておく。これで完璧。あとは楽しい本番、幕が上がるのが待ち遠しくてたまらない状態。そんなん無理や、と思う人には、きっと一生できませんが、うん、そうあるべきや、と思った方は、是非この状態を目指してください。
以上、これならいけそうだ!と直感的にビビッときたものを一つないし二つ、試してみてください。
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Comments

“015: 舞台で緊張してしまう” への3件のフィードバック

  1. 尺八暦30年の私も人前で演奏するときは、緊張します。若いときは緊張し過ぎて、音が出ず(尾上の松)最初から終わりまで悲惨な演奏でした。
    今でも、やはり唇が振るえ、音に影響することが時々あります。
     最近、オカリナを演奏している方と話をする機会があり、「緊張」のことを質問したら、「吹奏楽器は心臓に一番近い楽器だから心臓の動悸が、ストレートに音に影響する」。確かに箏などの弦楽器と異なり、舞台にあがるとどんな人でも心臓がドキドキします。そのドキドキが唇に影響し、音にも影響することは身をもって実感します。
     結論として、私が「緊張」対策としての対策は
    1.誰でも人前で緊張する。緊張して当たり前。邦山も鈴慕も五郎もみんな。
    2.その緊張しながらでも曲を最後まで演奏する。
    3.緊張しながらも最後まで演奏した自分を褒めてやる。「よくやッたぞお前」
    4.本番での演奏は練習の3割位と考え、とにかく練習、練習。
    5.その練習することに、日本伝統楽器の尺八の意味があるように思う。
                最近そんなことを感じます。いかがでしょうか。

  2. 佐藤凛童のアバター
    佐藤凛童

    尺八を単なる楽器の一つとしてとらえるのではなく、尺八を「道」としてとらえ尺八道を探究することは、尺八とつきあっていく上での理想形の一つであると同時に、芸能を次世代に伝えていくことにつながっていくのだと思います。
    舞台の緊張について、最近の研究の一例としては、日常の演奏を常に「録音」していると良い、という結果が出ています。普段は朗々と吹いているのに、ある時録音を始めてみると、その瞬間から突然音が出なくなった、という方もいらっしゃいました。日常的録音により自分以外の誰かを継続的に意識し続けることになり、舞台の非日常性が少しなりとも緩和され、同時に、その他の要素に影響を受けない「集中能力」が向上する可能性があります。
    指導者側の立場からすると、生徒は一つの舞台のために何ヶ月もかけて準備している場合が多く、そこにかかる心情は究極的に深刻です。一言をもって一蹴に付すことのできない、人間関係を基盤にじっくりと時間をかけていくべきデリケートな問題といえます。

  3. 私もとても緊張します。
    手汗、震えが止まりません…。
    少しずつ克服できるようイメトレ、練習をがんばりたいと思いました。
    録音をしようとしてとたんに音が出なくなったことがあったので演奏の
    録音も取り入れてみようと思います。