暗譜での演奏にあこがれますが、どうすれば覚えられるのでしょうか。
暗譜のやり方について、よく質問を受けます。
この質問を受けたら、筆者は毎回こう答えることにしています。
覚えられないのは、100回吹いていないからです。
それで覚えられなければ、もう100回吹いてください。
「楽譜を見ても見なくても結局演奏する内容は同じ」という確信を持って演奏するとき、わざわざ楽譜を見るのは面倒なので見ないで済ませてしまいます。これが、暗譜演奏の実態です。
「暗譜のやり方」は一つしかありません。反復あるのみです。
そこにあるのは、執念にも近い暗譜への情熱です。
普段の生活を、その一曲を中心に回転させていく覚悟があるかどうか。これがない人は、多分一生暗譜とは無縁です。
暗譜の実際について、一例をご紹介しましょう。
基本的に無駄な時間は、ヘッドホンで音を鳴らしっぱなしにします。
現代人は「移動時間」という無駄時間を一日のうちのかなりの部分で抱えていますから、この全てを、ヘッドホンで音を聞いている時間とします。音源がなければ、自分で録音します。
電車の中などで楽譜を確認したい場合は、楽譜をコンビニで50%にコピーしておくと、上着のポケットに入れられ、吊革につかまりながら見ることができます。
一曲の中で、特に印象的なフレーズをまずつかまえましょう。
そのフレーズが頭に入り始めたら、それを実際に楽器で演奏してみます。曲の途中の、こま切れのパーツ単位で構いません。
そこを最初の足掛かりとして、少しずつ、陣地を拡大していきます。途中、楽譜での視覚的な確認を混ぜ合わせながら覚えていきます。
フレーズの流れで覚えられるところは特に問題ありませんが、フレーズの切れ目、あれ、次はどっちだっけ、という箇所が、最終的に残ることになります。
そこでは、楽譜の「映像」を、そのまま覚えてしまいましょう。「フォトリーディング」という速読法の応用です。
楽譜1ページの中で、対象箇所は右から何行目の上からこのくらい、と、網膜が捕捉した映像情報そのままを覚えてしまいます。右脳にガッチリ焼き付けてください。(この方法は、「何ページの何行目」と一発で対象箇所を指摘できるので、自らが対人稽古を催す場合などに、大変役に立ちます)
楽譜に演奏機会を拘束されない自由。いつでもどこでも、楽器一つでぽっと旅に出る感覚。
暗譜には大変な労力を必要としますが、待ち受けている贅沢もまた、格別です。
(但し、暗譜での演奏は、視覚に任せておけばよかった部分を余計に頭で考えなければならないので、演奏中に随時考えるべき音楽表現などが少しなりとも削られてしまうのは確かです。これを理由に「暗譜をしない、覚えていてもあえて楽譜は見る」という方針も否定はできず、一概に楽譜を見るからダメだという考え方は成立しませんので、念のため)
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