尺八を約2年間、続けてきましたが、どこが面白いのか、いまいちよくわかりません。
さて、このたび非常に深刻な質問を頂戴しました。以下、一般論として、展開します。
尺八の面白いところは、どこか
尺八の面白いところを探るには、日本の文化とは何かというところから探る必要があります。西洋との比較で考えるとわかりやすいので、そうします。
西洋の文化は合理主義、結果重視なのに対して、日本の文化は精神主義、プロセスを重視します。
例えばスポーツの世界において、西洋的な考えでは「試合に勝つという最終目標のためにいかに効率的なプログラムをこなしていくか」が問われるのに対し、日本的な考えではただ勝つだけではだめで、スポーツを通じての自己の成長、精神面の修養が問われます。
この両者の特徴は音楽の世界においても、非常に顕著にあらわれます。
西洋の音楽は、結果として、成果物として聞こえる音、あるいは和音がどのようであるかを重視します。
オーケストラに要求されるのは全体の調和、完璧な和音であって、楽器個々の個性は不要です。つまり楽器を演奏する上で、一音一音は旋律、或いは和音を構成するための部品に過ぎず、そこに個性は必要なく、機械的な均質性が要求されます。
これに対して日本の音楽は、元来和音という概念すら存在せず、独奏を主体とした演奏形態が主流で、厳格なテンポ進行よりも演奏者の主体的でかなり自由な演奏表現が好まれ、それが磨かれてきました。演奏者は各「プロセス」に意識を傾注し、個々の音や、或いはハジク、コスルなどの手法自体が特別な意味を持ち、それが積み重なって、結果として旋律が作り上げられる、という楽曲進行です。誤解を恐れず表現すれば、最終的な結論よりも、今現在のこの瞬間、どのようであるかが重要です。
尺八は、まさにこの部分において、最大の演奏効果を発揮することが期待できます。
尺八のどこが面白いのか、一言で言えといわれれば、ズバリ、一音の持つ輝きです。一音を8拍伸ばしただけで一曲になってしまう、そんな楽器が他にありますか。
面白い、と感じるためには
一般的に、尺八の演奏者は、楽譜を演奏します。
これは、普通です。自然な行為です。
しかし、ここに実は、ものすごく深刻な問題が潜在しているのです。
楽譜には旋律が記されています。楽譜を演奏するということは、旋律を作り上げることが目的です。しかし、その行為は、図らずも西洋音楽の範疇にて試行されるべき西洋的発想に基づく行為であって、尺八が得意とする分野であるとは限りません。
むしろ、尺八が不得意なところで延々と停滞を強いられる可能性が高く、結果として「面白くない」という印象しか残らない、そういう行為を自ら望んで行っていることになります。
これが、「面白くない尺八」の原因の根幹である、と筆者は考えます。
最終目標は、旋律を奏でることです。楽器として尺八を吹く以上、これは全く、異論のないところです。
しかし尺八という楽器は、旋律を奏でて、面白いと心底感じられるようになるには、楽器の音域性能を存分に引き出せる状態にあることが前提条件の話であって、そこに到達するためには、相当な量の意思と修練と運が必須であり、多くの尺八奏者は、これを満たすことのできないまま、旋律を奏でようとする「暴挙」を、その意識を持たないままに繰り返し、自滅していきます。
そんなもの、面白いか、面白くないか、ときかれれば、ようするに、面白くないでしょう。面白いっていうなら、どこがどう面白いのか、きちんと説明してください。
では、どうすればよいのか。
最終目標は、旋律を奏でることです。
でもそれは、非常に難しい行為であるということを、まずは認識しましょう。
そして、楽譜の呪縛、楽譜どおりに吹かなければならないという強迫観念から、一旦自由になろうとしましょう。
楽譜をひらかなくても何時間でも吹き続けてよい、その自由を謳歌しましょう。
自分の吹きたい音を探して、突き詰めていくこと、それが日本文化としての尺八、面白さの真髄を纏った尺八です。
筆者の教室では、今ひとつ面白そうに吹いてないな、という感じが伝わってくる場合は、楽譜から離れて、「甲のロ」を延々と吹かせます。
そんなことをしていると稽古時間はあっという間になくなってしまうのですが、良いポイントにバチンとはまった場合のことを考えれば、これに勝るモチベーション高揚効果はありません。
日本の楽器を、吹いてください。それが、尺八という楽器です。
Copyright(c) 2006 OFFICE RINDO. All Rights Reserved.
Comments
“045: 尺八の、どこが面白いのかわからない” への4件のフィードバック
始めまして、ブログ検索でたどり着きました。
大変参考になる内容でこれから時々訪問させていただきます。
私のブログです
http://yuunosuke.cocolog-nifty.com/kotennsyakuhatisyugyou_/
一度ご笑覧ください
恐れ入ります。
ブログ拝見しました。楽しい内容で、笑ってしまいました。(失礼)
皆さんで真剣に楽しんで稽古されている様子が伝わってきました。
和風楽の琴古譜は、入手されましたか?琴古社から公刊されていますので、
品切れでなければ電話で注文可能だと思います。
和風楽譜、早速電話をして見ます。
琴古社のHPはないようですね?
みそたね君のブログに問い合わせを入れました。
ありがとうございました。
アマチュアで長年フルートを吹いてきている者です。8ヶ月前、ひょんな事から尺八に取り憑かれております。
スレッドタイトルにちょっと驚いて書かせていただきます。
従来、私は尺八とは?音程が悪くイライラさせられる楽器で、どこがそんなに良いのか分からない、と考えてきておりました。ところが実際に尺八を吹いてみると、その音程作りが如何に難しいものであるか?また上手く音が出せたとき、その音色の何とも言えない艶にすっかりハマってしまいました。音程を確認しながら吹く、と言う事は西洋楽器であるフルートの演奏にも随分役に立つものです。フルート奏者は時に、運指さえきちんと出来ていれば音程は大丈夫、と考えがちです。でもそうじゃないんですよね。想像した音・音程を出すと言う事は和楽器だろうが、西洋楽器であろうが一緒ですね。
まだ師匠にも教授を受けておりませんし、当然、本来の楽譜はほとんど読めません。でも知ってる曲を片っ端から演奏して楽しんでおります。楽譜は見ません。音程を変えて吹いてみたり、何時間吹いても飽きる事がありません。
最初は尺八を練習するとフルートの演奏に支障を来していました。それは今でも若干あるかも知れません。しかし、どちらも同じエアーリード楽器。それを吹き分けられる様になるまで、頑張るつもりです。時間に余裕ができる様になればしっかりした先生にも教えていただきたいと思っております。
その時点からが問題なんでしょうね。尺八が面白いと思う感情が維持できるかどうか?
少なくとも勝手気まま、自由奔放に尺八を吹いている現在は、面白くて仕方ないし、この楽器と少し関係と持てた事を人生の喜びと感じております。少しでも皆様の参考になれば幸いです。